2014年3月1日土曜日

不完全存在のテキスト3


飢えていたあの晩、夜汽車は汽笛を鳴らすことなく通り過ぎて、森の奥に進んで、ある頭部を私は片手で抉った。

「聞こえてくるのは、哀しい声、子供の波長は乱す、包帯を見た、酷く汚れた包帯を
あくる日に、地べたで蒸した魚缶を平らげて もう一度奥まで進んだ 」

凄まじいまでの爆音 葬儀 豊かさ 斡旋 花々が散る 還らぬ望郷夢見て

「そういえばどうしたっけ?あれだよ、表紙に油がついてて、べちょべちょしてて
ページがめくれなかったよ 返せないよ 捨てちゃったし 今頃 木の幹の中かな 蟻に食われちゃってるよ 」

ついてくる ゆっくりとついてくる 黄色い光線 生年月日昭和38年7月7日 陥没した頭部の中のアイデンティティカード
死体を見に行こうとした 夏 友達と三人で ビニールテープを買って 胴体に括りつけて
日が沈むのが分かっているのに 構わずに 奥に進んだ っけ?
一人が叫んだ ハッとした そこまで必死に走っていって 置いてかれないように
「後ろ見てみなよ 霧で霞んで 自分の手も見えない 馬鹿げている 何かが輝って 視界を過った
胴体?あんたの名前が書いてある いや私はここにいるのに なのにあんたの名前が書いてある 」

歓喜して手を振った 煙突から煙が放出して 尻尾を辿ると 黒幕暗転 小刻みに震えて窓に絵を描いた
「蟻に食われちゃってるの君の胴体じゃないかな? さっき視界を霞めていって よく分かんなかったけど
君の名前が書いてあったから 君の胴体じゃないのかな? 何処って?さっきからここにいる 」

蛍の声援は船縁を揺らして 森の影は如雨露 谷底で照る提灯 ジャコメッティの彫刻を鳥小屋で覗いた 
「 置いてかれないように 背中をみていたけど 何も見えなくなっちゃった
でも綺麗だと思ったな 友達の顔が トモダチではなくて 色んな顔が絵の具のパレットみたいに混じってるんだ」

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